「ということで……。武者さんを一年生クラスのどこかに入れてあげたいのですが、教頭」
「だめですネ」
「なっ!」
私は、少し湿ってはいるものの、綺麗になった制服を身にまとい、浦井先生と職員室に来た。職員室と言っても、浦井先生のみが職員室に入り、教頭先生を廊下に呼び出した。騒ぎにならないようにだろう。
教頭先生は、シマウマらしい。グレーのスーツの上だけを着て、メガネらしきものをしている。
今さらではあるのだが、ライオンである浦井先生もこのシマウマも、二足歩行をしている。私の世界では考えられないことだ。
教頭先生は呆れた顔で、私の事情を話してくれた浦井先生を見る。
「そんな話信じられませんヨ。新種、もしくは日本では知られていない動物なだけでしょうヨ。きっとどこかでうちの校章を手に入れて、受験に落ちたくせにもっともな理由をつけて学園に入ろうとしているとんでもない動物ですヨ」
嫌な先生だ。人間の方のコイーヌ学園の教頭先生も、こんな感じだったりして。
全く取り合う気のない教頭先生。浦井先生は、そんな教頭先生に食い下がってくれる。私は、口出しするとややこしくなりそうなので、黙っていた。
やがて、教頭先生はため息をつき、浦井先生の言葉を遮った。
「わかりましたヨ。でも、一年生クラスは無理ですネ。ただし、Zなら、好きにして構いませんからネ」
ゼット……。
「ぜ、ぜっと!? 本気で言ってるんですか、教頭!」
「Z以外、そんな種族、身元不明な動物は入れられませんヨ。一応考動物のようですけどネ……」
「で、でも、彼女は、一年生のメスですよ! あそこ、二年のオスばかりじゃないですか……!」
「フム……。エート。武者さんだったよネ?」
「えっ、あっ、はい」
いきなり話を振られた。
「種族は”ニンゲン”、だったカナ……? ニンゲンは、別の種族の者と交尾しても、子供が作れるのカナ?」
「つっ、つくれましぇん……!」
考えるより先に、口が否定する。
あまりにもさらっと言われた、”交尾”という言葉。思わず男女の営みを想像してしまい、顔が熱くなる。さらに、教頭先生、そういえばパンツとか全然穿いてないから……。ああ……あぁ……。
しかし、教頭先生はおろか、浦井先生も気にしていないようだ。やはり、人間と動物は違うのか……。
「なら問題はないネ。ちょっとした火遊びで交尾の真似事をしたとしても、子供はできないんだからネ」
「そういった問題ではなく……!」
「Zも、新しい……しかも、メスが来たら、変わるかもしれませんヨ。とにかく、Z以外のクラスに、彼女は入れられませんからネ」
ライオンが、シマウマに歯が立たない。おかしな光景だ。
それにしても、Zクラスは、男の子ばっかりなのか……。
……それって、おいしくない?
そうだ。そもそも、私は、男の子に熱い眼差しを注いでもらうためにこの学園に入学したのだ。なら……。
私は、浦井先生と教頭先生の間に入った。
「私、Zでいいです!」
「武者さん……」
「ホウ」
言い合っていた二人(?)が私を見る。驚いた顔をした後、浦井先生は私を心配そうに見つめ、教頭先生は私に微笑んだ。
「力強い声ですネ。勇敢なあなたの姿勢、私、嫌いじゃありませんヨ」
やった! 教頭先生の好感度が上がった! シマウマだけど。
「じゃあ、武者さんもこう言っていることですし、浦井先生、Zに案内してあげてくださいナ」
浦井先生に、教頭先生は言う。私も、お願いしますと頭を下げた。
浦井先生は、渋っていたが、やがて頷いてくれた。