初恋スコーチング【テキスト先行公開版】34-21b

最終更新日:2023年10月7日

◆この記事は18禁です!

このストーリーは、18禁ノベルゲームにしたい作品の“テキストだけ”先んじて公開するものです。

詳細 / 目次

フリー版で公開していた範囲はそのままノベルゲームテキスト形式、そうでない追加部分は主に小説描写になっています。


クソメガネ
「普通に美味そうだな……」

届いたスパゲッティは、その辺のファミレスで出てくるものと何ら変わらない見た目をしていた。
匂いは、言うまでもなく、食欲をそそるミートソースのいい香り。

私は、二人分のスパゲッティを、テーブルに並べた。

部屋には、こうしたルームサービスを受け取るための小窓があり、スタッフの人は、そこに置いていくらしい。

あかね
「食べようか」

クソメガネ
「……ああ」

こんな会話すら煩わしく感じるほど、今の私は飢えている。

急いで……だけど、それを気取らせないように注意しながら、イスに座る。
クソメガネも、向かい側のイスに腰を下ろす。

クソメガネは、そこまで空腹ではないのか、ゆったりとした動作だ。
ちょっぴりいらいら。

クソメガネ
「んっ……!」

あかね
「?」

座ろうとしたクソメガネは、また腰を浮かした。

私は、もう“いただきます”のために、両手を叩く一歩手前のポーズをしているというのに。
フェイントを喰らわされた気分。

クソメガネは、頬を染めて、私をにらんだ。

クソメガネ
「おま……っ、抜かなかったのかよっ?」

あかね
「……あ」

クソメガネ
「『あ』じゃねえだろ……!」

おもちゃのこと、すっかり忘れていた。

クソメガネ
「座れねえだろが……」

あかね
「いや、抜いて……いいよ?」

クソメガネ
「今から食うのに、けつからもの出してたら、なんか嫌だろ……」

あかね
「じゃあ、立って食べる?」

クソメガネは、ため息を一つついた。

クソメガネ
「……くそ、しょうがねえな……」

おそるおそる、腰を下ろしていく。なんだか、痔を患っているみたいだ。

クソメガネ
「んっ……」

クソメガネ
「んあぁっ、……」

あかね
「大丈夫?」

早く食べたい。

クソメガネ
「はぁ……はぁ……っ……」

クソメガネ
「くぅ……、食ってれば、忘れるだろ……」

クソメガネ
「早く食おうぜ……」

よし。

あかね
「いただきます」

クソメガネ
「……いただきます」

いよいよ食べる許可が下りた。

私は、フォークをくるくる回して麺を絡ませ、口に入れた。

もぐもぐと噛みしめると、ちょっとだけ驚く。

あかね
「あ、美味しい」

グルメ番組のリポーターではないため、豊富な語彙は、持ち合わせていない。
なので、稚拙な表現ではあったが、正直な感想がこぼれた。

美味しいわ、これ。決して、空腹のせいだけではなく。

しかし、空腹のせいで、フォークを使う手は止まらない。

もぐもぐ。うまうま。

クソメガネ
「……腹減ってたんだな」

あかね
「え……、あ……」

声をかけられて、ふと気づく。

クソメガネのお皿は、ほとんど手つかず状態のまま。
なのに、私のお皿は、もはや三分の一あるかないか。

しまった。

何が“しまった”なのかは、正直わからない。
しかし、“しまった”と思った。恥ずかしくなった。

『私食べるの早いから』とでも、言い訳したくなってしまう。

私の気を知ってか知らずか、私が口を開く前に、クソメガネは話し出す。
おもちゃは、慣れたんだろうか。

クソメガネ
「こういうとこって……、もっと小汚くて、場所だけ提供するようなとこだと思ってた」

クソメガネ
「美味いもんだな……」

そう言ったクソメガネは、相変わらず、仏頂面だけど……。

少しだけ、表情がやわらかく見えた。

美味しいものって、偉大だな……。

なぜだかそんな風に考えて、また恥ずかしくなってしまう。

……お茶を飲もう。

気分を切り替えるために、ホテルに来てから一度も飲んでいないペットボトルのふたを開ける。

……と、ふと気づく。

あかね
「あれ……」

私、こんなにお茶残してたっけ。

クソメガネ
「……何だよ?」

あかね
「いや、結構お茶残ってたなって……」

クソメガネ
「……?」

クソメガネ
「………………」

クソメガネ
「……まさか、こっちだったか……?」

あかね
「………………」

さっきからクソメガネが飲んでいない方が、私のだと思っていた。

しかし…………。

クソメガネ
「………………」

あかね
「………………」

……気まずい。

今さら、間接キスとか気にする歳でもない。

でも、私たちは、恋人でもなければ、友達ですらないわけで……。

クソメガネ
「……あっちに、ポットがあるだろ」

あかね
「え? あ、うん……」

クソメガネ
「使えよ……。気持ち悪いだろ……?」

結構、気は使える人なんだね……。

場違いなことを一瞬思って、それを振り払うかのように、考えるより先に口が動いた。

あかね
「いっ、いーよ。飲んじゃったのは、仕方ないし……。私も、これもらうから」

クソメガネ
「……いいのかよ?」

あかね
「あっちのは、お湯入れるわけだし、熱いでしょ? 今、ごくごく飲みたいし……」

私は、ペットボトルに口付けた。

ペットボトルの口。硬い。熱は持っていない。

なのに、頭が想像する。
クソメガネの唇を。

なに考えてんだろっ。

私はりくが好きだし、クソメガネも吉原たかしが好きなんだから、キスなんか絶対しないのに。

ごくごく、ごくごく。

クソメガネ
「……………………」

クソメガネは、赤い顔でそっぽを向き、唇をとがらせていた。