初恋スコーチング【テキスト先行公開版】2

最終更新日:2023年3月9日

◆この記事は18禁です!

このストーリーは、18禁ノベルゲームにしたい作品の“テキストだけ”先んじて公開するものです。

詳細 / 目次

フリー版で公開していた範囲はそのままノベルゲームテキスト形式、そうでない追加部分は主に小説描写になっています。


あかね
「ふられたぁ!?」

りく
「……ん……」

思わず大声を出した私。
いつもなら、『声おっきーよ』と苦笑するはずのりくは、暗い顔で肯定した。

あかね
「なんで……」

りく
「他に好きなやつできたんだって……」

また、『なんで』と呟きそうになる口を、慌てて噤む。

りくとこうして二人で下校するなんて、何年ぶりだろう。

りくに彼女ができてからは、学外で話すことも少なくなっていたのに。

あかね
「じゃあ、今、彼女いないってことになるわけ……?」

りく
「……そうなるな……」

ああ。

喜んでいる自分を殴りたい。
思わず笑いそうになってしまう。

りく
「俺、やっぱ諦めきれないよ」

りくは、真剣なのだ。
笑ったりなんかしたら、幻滅される。

りく
「昔から、あかねしかいないんだよ。何でも話せるやつ」

りく
「なぁ……。俺、どうしたらいいのかな……」

……本当に憎いなぁ。

転がっていた石ころをつま先で弾いて、りくより一歩先を歩く。

あかね
「一時の気の迷いじゃないの?」

本気で、あの子が、りくじゃない誰かに惹かれればいいと思っているくせに。
本心と違うことを平気で言えるようになったものだ。

りく
「でも、三年も付き合ってんだよ?」

りく
「そりゃ、俺から告白したわけだけど、さゆりだって嫌々だったわけじゃないし……」

あかね
「その好きな人のこと教えてもらったの?」

りく
「幼なじみで、初恋の人なんだとさ……」

りく
「小さい頃引っ越したらしいんだけど、また帰ってきたとか」

りく
「初恋の相手なんて、勝ち目ないじゃんよ……」

りく
「俺にとっての初恋は、さゆりなのに」

りくは、ナイフを振るっている。
しかし、それをナイフと認識していない。

幼い子どもが、無意識のうちに凶器を振り回しているのと同じ。
本人は、危ないものと知らない。

あーあ。私の心、ずたぼろ。

あかね
「初恋なんて、叶わないよ」

りく
「俺もさゆりも否定してんじゃん。そんなこと言わないでくれよ」

さゆりちゃんは、初恋の人をまた好きになった。

りくをまた好きにならないでほしいけど、その初恋の人ともうまくいってほしくないなぁ……。

りくだってそうだ。
初恋のさゆりちゃんとうまくいかないでほしい。

そんな最悪思考を持っていて、自分の初恋は叶ってほしいって?
……反吐が出るよ。

あかね
「私だって、恋してんのに。あんたは、いつも私に頼るばかり」

りく
「う……。ごめん」

りく
「もちろん、あかねを頼りっぱなしにはしないよ」

りく
「あかねはいつも俺を助けてくれるし、俺だって、あかねの役に立ちたい」

りく
「あかねも、言ってくれればいいのに」

りく
「昔から好きなやついるんだろ?」

そこまで察していて、自分に好意が向けられているとわからないのか。

りく
「あれだろ? 幼稚園の時のあまきせんせー」

いつの話だよ。しかも、別に恋愛的な意味で好きじゃないし。

あかね
「まぁ、まずは、りくのこと」

りく
「おお……」

あかね
「しつこく追うのは逆効果だから……、待つしかないんじゃないの?」

りく
「……やっぱ、それしかないかー……」

私の家に着いた。

りくの家は、十字路の先だ。

りく
「まぁ、話聞いてくれて助かった。ありがと」

あかね
「うん……」

りく
「じゃあな」

小さく手を振って、りくと別れる。

りくは、とぼとぼと、意気消沈という言葉ぴったりに歩いていく。

その背中を追う権利は、私には、ない。

むしろ、追いたくなかった。

いっそ、りくを嫌いになりたい。

そう思ったのは、何回目だろう。

あかね
「好き……、りく」

「んにやってんだぁー!!」

ぼんやり見ていたりくの背中に呟いた瞬間のできごとだった。

十字路の右から、バイクが来た。
りくは、一瞬バイクに気づかず、轢かれそうになった。
すんでのところで、バイクは横転。

尻もちをついているりくに、ライダースーツを着た男が怒鳴り散らす。

「てめぇー! 俺のかわいい弟がケガしたじゃねぇか! どう落とし前つけてくれんだ、ああ!?」

どうやら、横転したバイクの運転手には、兄がいたらしい。

りくが、何か言っているようだが、この距離では聞こえない。
聞こえるのは、男の怒声だ。


「すみませんじゃねえよ! 弟のケガをどうしてくれんのか聞いてんだよ!」

静かな住宅街に響く声。

そうだ、救急車……!

私は、ケータイを取り出し、その場に向かう。


「お前……、その制服、弟と同じ東仲ひがしなかか?」

ぴた。
足を止める。

なんだか、空気が変わった。

不気味な感じがして、りくには悪いものの、電信柱の陰に身を寄せる。


「いてえよお、兄ちゃあん……」


「おうおう、かわいそうに。おい、お前。弟と同じ東仲のよしみで、今は見逃してやるよ」


「ただし、あとで治療費払いな。弟は、療養が必要になるだろうからな」


吉原よしわらたかし知ってるか? 弟の親友でな。あいつに取り立ててもらあぁ」

吉原たかし、って……。


「今日は、これで……」

あかね
「!」


「じゃあな」

男は、りくの顔面を殴ると、弟を起こして、去っていった。
幸い、大事には至らなかったようだ。

あかね
「りくぅ!」

りくに駆け寄る。
りくは、放心していた。

あかね
「大丈夫っ!?」

りく
「はは……、大丈夫」

りく
「バイト、探さなきゃ」

りくは、遠い目で呟いた。