最終更新日:2023年6月29日
◆この記事は18禁です!
このストーリーは、18禁ノベルゲームにしたい作品の“テキストだけ”先んじて公開するものです。
フリー版で公開していた範囲はそのままノベルゲームテキスト形式、そうでない追加部分は主に小説描写になっています。
図書室を二周ほどしたが、りくはいないようだ。トイレだろうか。
しかし、男なら早いはず。
私がぐるぐるしている間に、図書室に戻っていてもいいと思う。
あるいは、お腹の調子が悪いのか……。
いいや。
ついでに私もトイレ行っておくかな。
あかね
「あ……」
トイレに入ろうとしたところで、りくを見つけた。
そこにいたわけじゃない。いたのは、廊下の先だ。
こちらに背を向けて、佇んでいた。
周囲には、誰もいない。
私は、今あえて、トイレに行きたいわけじゃない。
りくを見失いたくないし、このままりくに近寄り、声をかけてもよかった。
あかね
「………………」
意識すれば、聞こえてくる音楽。
私は、携帯電話を取り出して、時間を確認する。
私がトイレで用を足している間は、大丈夫。
りくは、あの場を離れない。
私は、トイレに続く扉を開けた。
◆
あかね
「……りく」
りく
「あ、あかね!」
案の定、私がトイレで用を足していても、りくは、その場所にいた。音楽室の前に。
りく
「び、びっくりした。メールした?」
あかね
「ほら。連休前、私本借りたじゃん。そういえば読んだから返そうと思って、そのまま図書室に行ったんだ」
りく
「あ、まじ? ごめんな、探したろ」
あかね
「少しね。でも、全然いいよ」
あかね
「……部活やってるね……」
あかね
「吹奏楽部」
りくは、軽く頷いて、再び音楽室の方に目を向けた。
りくは、吹奏楽部だ。
……いや、“元”吹奏楽部か。
吉原たかしグループに目をつけられ、部活をやる時間がなくなったりくは、退部をしていた。
りくは、昔から、楽器が好きだった。特に、ラッパ。
幼い頃は、おもちゃのラッパをよく吹いていた。
音楽という授業を習い始めた時期、私と一緒に、近所のピアノ教室に通い出した。
私は、りくよりピアノが好きだった。
けど、りくは、私よりピアノが上手かった。
りく本人は、ピアノには、そんなに心を動かされなかったみたいだ。
音楽の授業でリコーダーが出てきてから、りくは、ピアノをやめた。
相変わらず楽器を扱うのは、上手い。
りくは、ピアノよりリコーダーが好きと言った。
しかし、やはりリコーダーも、それほど心が動いていないようだった。
部活をやれるようになった。
選べる部活の中に、吹奏楽部があった。
りくは吹奏楽部に所属し、トロンボーンを手にした。
これだ、と、思ったらしい。
鍵盤を持つピアノとも、笛であるリコーダーとも違う。
やっぱり、ラッパ。
ちなみに、私は、りくは、ピアノよりリコーダーより、ラッパの音色が好きなんだと思っていた。
しかし、りくは、単純に金色の楽器に憧れていたらしい。
音色や、扱い方じゃない。
あろうことか、色。それだけ。
なので、吹奏楽部に入って、最初に手にしたのがトロンボーンなだけであって、別にトランペットやホルンなんかでもよかったのである。
『金は、一番の色だから』
金メダルは、一番に与えられるメダル。
銀より銅より、ずっと素晴らしい色。
運動会で一番になったことがないりくは、幼心にずっと憧れていたようだ。
金色をした楽器……ラッパに、惹かれたらしい。
そんな、幼稚でくだらない理由かもしれないけれど。
あかね
「好きなんだねぇ……」
りく
「あ、ごめん。帰ろっか」
あかね
「いいよ、まだ……」
あかね
「また、入部すれば?」
りく
「吹奏楽って、結構金かかるんだよ? 無理無理」
あかね
「奨学金はまだありますぜ、上羽くん」
りく
「あ、あかねぇ」
あかね
「……バイトは? あっちもやめちゃった?」
りく
「んー、そうだね。色々あったから……」
あかね
「もう一回、バイトは、同じとこじゃなくていいから、やってみたら?」
あかね
「好きなんでしょ? このまま卒業したら、もうりくは、大人数と演奏できないかもよ」
あかね
「私は、部活やってないけどさ……。こういう活動が気兼ねなくできるのは、学生のうちだけじゃないのかな」
あかね
「これが最後の学生生活になるのなら……、まだ卒業まで時間もあるんだし、目一杯やりなよ」
りく
「あかね……」
りくは、金は一番綺麗だと言った。
私は、ちょっと同意しかねる。
一番きらきらと綺麗なのは、一番ぴかぴかと輝いているのは、金管楽器ではなく――、それを演奏している本人だと思うから。
りく
「………………うん」
りく
「あかねがそう言ってくれるなら……、頑張ってみようかな」
りく
「ただ、ほんとはさ……、部費のことで迷っているんじゃないんだ」
りく
「この前の、あの騒ぎ……部活のやつらにも、見られてたから」
りく
「三日間、ゆっくり休んでみたけど、やっぱ、必要最低限の授業以外への顔出しは、きついもんがあって」
あかね
「……無理?」
りくは、一呼吸置いて、言った。
りく
「無理かもね」
りく
「でも、俺……、このままじゃ、学内、あかね以外の友達ゼロだよ」
りく
「俺は、ごく普通だよ。ごく普通だから……、友達だって、この学内でもそれなりにいた」
りく
「なのに、いきなりあかね以外の友達消滅だ。そして、このまま卒業までなんて耐えられない」
……全くだ。
私は、こぶしを握る。
吉原たかしのせいで。
吉原たかしのせいで、吉原たかしのせいで、吉原たかしのせいでっ……!
りく
「みんなも、気まずいんだ」
りく
「俺から、一歩踏み出さないとね」
りく
「………………怖いけど」
りく
「でも、あかねも応援してくれるなら」
あかね
「りく……」
りく
「それに、さゆりとも、吹奏楽通じて知り合ったからな」
………………。
りく
「俺にとって、吹奏楽は運命だと思うんだ」
相変わらず、りくは、罪作りだ。
りく
「ただ……」
りく
「もし、くじけて、泣いちゃった時は、慰めてほしいな」
りく
「泣き言は、あかねにしか言えないよ」
りく
「幼なじみだと、かっこつけるのも無意味だし、本音出せちゃうもん」
りく
「……頼りっぱなしでごめん」
りく
「その代わり、もしあかねが泣きそうになったら……、俺もあかねを慰めるから」
りく
「俺は、こんなんで、頼りないけど……、あかねのこと、ほんの少しでも支えたいんだ」
本当……、罪作り。