初恋スコーチング【テキスト先行公開版】12

最終更新日:2023年6月29日

◆この記事は18禁です!

このストーリーは、18禁ノベルゲームにしたい作品の“テキストだけ”先んじて公開するものです。

詳細 / 目次

フリー版で公開していた範囲はそのままノベルゲームテキスト形式、そうでない追加部分は主に小説描写になっています。


りく
「あかねー」

あかね
「あ、りく」

りく
「ごめんなー、随分と待ってもらっちゃって」

あかね
「ううん、別に大丈夫だよ。そんなに気にならなかったし」

あかね
「じゃあ、帰ろう」

あかね
「何話したの?」

りく
「進学か、就職かの最終確認ってとこかな」

りく
「今日も、あかねに大金払ってもらったのに、進学するわけにゃいかないし……」

あかね
「そんな。別にいいのに」

りく
「いいわけないよ。俺は、あかねのヒモとかじゃないんだ」

りく
「それに、なんか……、こうやって、まだ学生生活続けていくのも、不安になっちゃった」

りく
「卒業したら、働きたい」

りく
「“学生”から……、卒業したい」

あかね
「……………………」

さすがに…………、わかっている。

恋人でもない私が、こうしてりくのそばにいられるのは、学生だから。
社会人になったら、いくら近所でも、会えない可能性の方が高くなる。

むしろ、近所でなくなる可能性ですら、高くなってしまう……。

あかね
「りくは……、地元で働くの?」

りく
「うーん。地元は、ちょっと……」

りく
「情けない話、怖いんだ」

りく
「あんなことされて……、あんな強烈なこと、忘れられるわけないじゃんか?」

りく
「俺や、あかねや、近くにいたやつらだけじゃない」

りく
「あの場にいた全員……、あの時の俺のこと、綺麗さっぱり忘れるわけないじゃん?」

りく
「今日も、今も……、あかねと一緒にいないと、聞こえてくる笑い声が全部、俺に向けられていそうで……」

りく
「……怖くて」

りく
「服を着ていないような気になって……、恥ずかしくて」

りく
「だから、もう……。一人暮らし、やってみようかなって」

りく
「遠くで、ね……」

りくと、離れちゃう。

もう、さゆりちゃんがどうとかいうレベルじゃない。

離れたら、きっと……、いつの間にか結婚してしまうのだろう。
彼女ができたことすら、私は知れず。

りく
「あかねは? もう面談とかやった?」

あかね
「ううん、面談はまだ……」

りく
「もう進路決めてる?」

あかね
「私は……」

進学でも就職でも、どっちでもいい。

ただ、りくと離れたくない。

……そう言ったら、りくは、どんな反応をするだろう。

笑う?
寂しくなるもんねって、冗談みたいに笑うの?

同意する?
俺も離れたくないよって、真顔で言ってくれる?

引く?
…………引く?

“俺たち、ただの幼なじみじゃん。そういうの、なんか気持ち悪いよ”

引いてしまう?

……いや、りくは、そんなこと言わない。

でも、りくの冷めたような、呆れたような顔が、頭の中から消えない。

嫌だよ。
りくのそんな顔、見たくない。

りくが薄情な人間でないことくらい、知っている。
なのに、りくに嫌われるかもしれないと思うと、全く言葉が出てこない。

りく
「……まだわかんない感じ?」

りく
「まぁ、まだ時間はあるもんね。そんな急がなくてもいいだろうし」

りく
「あかねは、何かなりたいものとかある?」

りくのお嫁さんになりたい。

りく
「俺は……、実は、具体的にこれっていうのは、考えてないんだけどさ。人に喜んでもらえる仕事がしたいな」

りく
「と言っても、だいたいの仕事って、そうだよね」

りく
「喜んでもらえない仕事って……、葬儀とか? 喜ぶと別ジャンルってだけで、感謝はされるだろうけど」

言わなくては。

りくに……、私の気持ちを、伝えなくては。

あかね
「りく、結婚……」

りく
「あ、結婚かぁ!」

りく
「……いいかも」

りく
「結婚とか、人生で一番輝く瞬間って、よく言うよね」

りく
「………………」

あかね
「あ、あの、りく……」

りく
「あー、だめだ……」

りく
「どうしても、さゆりのこと思い出して……」

りく
「未練がましいね、ほんと……。ふられて、あんな恥ずかしいことあって、……それでも、好きなんて」

りく
「恋愛系は、ちょっとメンタルもたないかも……」

……そうだ。

あかね
「就職先が地元でなくなったら……、さゆりちゃんに、もう会えないんじゃないの?」

りく
「……………………。そうだね……」

ずるい手を使う。

もう二度と、さゆりちゃんと会ってほしくない。
なのに、さゆりちゃんをだしにして、りくを引き止めようとする。

あかね
「りくは、さゆりちゃんとよりを戻したいの?」

りく
「戻したい、けど……。ここに留まりたくないってのは、やっぱある」

りく
「一番いいのは、さゆりと一緒に、地元離れちゃうのが理想」

りく
「でも、難しいじゃん。ふられてんだし」

あかね
「じゃあ……」

りく
「神頼み、っていうんかな」

りく
「もし、もしも……、俺が、さゆりと本当に結ばれるべき存在なら、たとえ遠く離れても、また逢える気がする」

りく
「また逢って、二人で、笑い合える気がする」

りく
「そうでなきゃ……、哀しいよ」

ああ……。

私にも、同じことが言えそうだ。

たとえ遠く離れても、運命の糸とやらが、私たちを結んでいるのなら……。

私は、左手を見た。小指を見た。

どうして、見えないんだろう。

最初からずっと見えていれば、恋に寄り道なんかしなくて済むのに。

確証があれば、まっすぐに“好き”と言えるのに。

私も、りくも……、悩んだり、しないのに。

りく
「……着いた」

私の家に到着した。

もっと話したいことがあった。

何より、りくのそばにいたかった。

あかね
「りくの家まで……、送ってくよ」

りく
「女の子に送られるってどうなの。しかも、俺ん家すぐそこなのに」

あかね
「すぐそこでも……、バイクと衝突しそうになったじゃん」

りく
「あはは……、そうね」

あかね
「ほら、危ないから」

りく
「うーん、情けないな……」